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フクロ小説スレ

1 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2006/09/24(日) 18:19:49 ID:1LNZa/Q2
小説書こうぜ!

232 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/01/23(水) 17:35:39 ID:CeviGxl6
ついにALLエターナるか…
このスレは地獄だ…

233 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/01/23(水) 18:16:04 ID:aeanA0LY
>>232
地獄じゃない
無の世界だ

234 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/01/28(月) 07:32:38 ID:kVsTFXNU
続きマダー?

235 :レ・フクラブル:2008/05/02(金) 16:55:33 ID:UHDLsL8Y

                                     /´⌒ゝ‐-、
                           . : .: (´⌒ゝ   ( レ'フ  ノー-、
 ╋───────────────      ``´  /⌒/´f':::;:;。'   }     ──╋
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     ━━┛ ━━┛ ━━┛       . . : (⌒ヽ ヽ. 〉 . : : :::{   〉‐-<.._.ノ _ノ  ノ    |
                         : : ` ー'  ̄´  . : ::::`ーヘ.__ノ    ` ̄´
 
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  | ┛     ━━┛ ┛━┛ ━━┛ ┛━┛ ┛  ┛ ━━┛ ━━┛━━┛ ━━┛  |
 ╋─────                 ───────────────────╋
 
                                噫無情 (Victor Hugo) よりパク(ry
 

236 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/05/02(金) 16:56:29 ID:UHDLsL8Y

                レ   フクラブル
              LES FUKURABLE  〜フクロな人々〜
 
               第一部 しι   第一章 正しい人 


   1 てんぷた氏

 1815年のこと、シャルル・フランソワ・ビヤンヴニュ・てんぷた氏は、ディーニュの司教だった。
 
 その真偽は別として、噂によれば、彼はフクロ高等貴族議会の議員の息子として生まれた。貴族といっても
並みの貴族ではなく、かなりの古い家柄で、代々法官の身分だった。シャルル・てんぷた氏の父は、当時の
習慣に従い、彼がまだ二十歳ともならぬうちに結婚させたが、てんぷた氏には放蕩癖があったのか、結婚後も
社交界での浮いた話は尽きなかったらしい。
 
小柄で風采は飄飄とし、才気に溢れ、粋で上品、文句の付けどころの無い好青年だった。奇形を思わせる
捩じれた耳や、鋭い目の下の大きな隈、時折見せる陰鬱な表情のために、一種の悪魔的魅力を漂わせ、
婦人連の好奇の的に、一部の青年貴族の羨望の的になっていた。

 だが、そんな彼も今や75歳の老人。かつての地位や名誉、財産はすべて失っていた。なるほど、今の彼には
司祭職と1万5千リーヴルという破格の年棒があるものの、慈善協会、孤児院、病院等に尽く寄付し、年に
1500ルーヴリしか手元に残らなかった。

 なぜ、以前は栄華を誇り、上流階級の頂点近くまでに上り詰めた一族の嫡子が、一介の司祭なぞになったのか? 
これまた真偽の知れぬ、一つの噂がある。


237 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/05/02(金) 16:57:26 ID:UHDLsL8Y
 1793年。山奥大革命。当時の人々の目に年はどう映ったことだろう。プギャ王家の恐怖政治に耐えかねた
民衆によるアルカモナズ監獄襲撃に始まり、繰り返される内乱とクーデター、それに伴う大量虐殺によって、
国内は混乱を極めた。プギャ16世の断頭台送りを皮切りに、ギロチンの嵐が吹き荒れることとなり、貴族という
貴族はプギャ派と見なされ首を失った。てんぷた家族についても例外ではなく、命からがら亡命できたのは
シャルル・てんぷた氏とその妻だけであった。しかし、妻は亡命直後、胸の持病で死んだ。

(てんぷた氏の姉は国内で絵師として身を隠し、後に彼と再会したが、この話については、今語ることもあるまい。)

 山奥陸軍元帥閣下のヒューポクライテ・クーデターにより、新政府が興るまで、てんぷた氏は国外から革命を見続けた。
「……何ですかこの狂態は?」に代表される山奥主義は強力な力を以てして、事態を収束させていったものの、
再び秩序が根付くには、5年の歳月が必要だった。

 てんぷた氏は、その動乱の中に何を見たのであろうか。誰もが目をそむけ、脳内あぼーんしたくなる光景の中に、
地位も財産も、家族さえも失った亡命者として。それは誰にも分からない。わかっていたことは、彼が祖国に帰ってきたとき、
すでに司祭になっていた、ということである。


 1804年には、リニョンの田舎町で司祭として引き籠って暮らしていた。

 ちょうど閣下の戴冠式のころ、ちょっとした削除依頼の件で、首都に出向いたことがあった。皇帝の甥にあたる
シナイ枢機卿に教区民のために請願したのである。その日、この司祭は、控室で待っていた。しばらくもすると、
客間の扉が開き、皇帝閣下が枢機卿とともに、司祭の前を通りかかった。閣下は、自分を物珍しそうに見つめている
老人に気が付き、振り返ってこう言った。

「私を見つめている老人は何者か?」

すると、てんぷた氏はこう答えた。

「閣下、閣下は一人の老人をご覧になり、私は一人の偉人に拝顔しているわけです。お互いのためになりますことでしょう」

皇帝はその晩、枢機卿から老人の名を聞きいた。そしてしばらく後に、この堂々とした老人はディーニュの司教に任命された。



238 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/05/02(金) 16:58:09 ID:UHDLsL8Y
 ネィティブ嬢は金髪で、まさに美人を絵にしたような人物だった。長い睫毛をしており、伏し目がちで、若いころの美貌を
まったく損なわずに歳をとったかの様だった。いつもかぶっているテン皮の帽子は、大革命以前の時代の唯一の名残であった。
テン皮のコートも持ってはいたが、聖職者の姉という身分上、着ることを控えていた。なんとも大人しい性格で、日がな一日、
庭で絵を描いては暮らしていた。
 
一方、ニャース夫人は、まだ若い、おっとりとした未亡人だった。家事をせかせかとよくこなし、また喘息持ちであったので、
お茶の時間以外はたいてい息を切らしていた。


 さて、赴任当日、てんぷた氏は、勅命で司教となったこともあり、ディーニュの有力者、ギコネコ旅団長の邸宅に招かれた。
着任式はそこで行われた。無論、知事、市長、市議長、地方軍官も出席して、である。

 正式に着任が済むと、司教の仕事が始まった。


239 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/05/02(金) 17:00:38 ID:UHDLsL8Y
237、238の間に張り忘れ。

 こうして、てんぷた氏は、姉のネィティブ嬢、女中のニャース夫人を伴って、ディーニュに赴任して来ることとなった。

240 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/05/05(月) 16:30:56 ID:wxgmdpAs
wktk

241 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/10/05(日) 19:15:38 ID:PjhMC05c
 2. 19年の徒刑を終えて

 褐色に錆びきった鉄門が砂埃を巻き上げて開いた。南仏の日差しに焼かれ、地中海の塩風に長年曝され続けたその門が開いたとき、
徒刑場から街道へと、門柱の間を熱風が走った。生臭い石灰の匂い。露天掘りの採掘場。足枷の鎖をじゃらつかせて鶴嘴を振るう徒刑
囚を獄吏が容赦なく鞭打つ。そんな光景を一瞬垣間見ることができたが、門はすぐに轟音と砂塵とともに閉じられてしまった。徒刑場から
門をくぐり出てきた男にとって、かつて自分を捕えていた地獄を振り返って眺め、感傷に沈む暇がないほど、門は素早く閉じられたのだった。
皮肉なことだ。19年の間俺を閉じ込め続けた堀と壁は、早く出て行けと言わんばかりにあっけなく俺を開放した。

 年は40歳前後の働き盛り、背丈は中背で頑丈そうな体つきをしていた。頭は短く刈られ、髭はぼうぼうに伸びていた。くたびれた様子の顔
つきだった。全体がみじめな印象を与えていた。ひさしのない鳥打帽には塩が吹き、胸がはだけた黒羅紗のシャツは擦り切れ、ズックのズボ
ンには穴が開いていた。皮の編み上げ靴、背嚢とそれに入った木綿の上着だけが新品だった。

 おめぇさんは人の二倍も力があったし、よく働いたからな、所長直々に支給品と支給金を余分にくれてやれとのご命令だとさ。ほら、渡すも
のは渡しただろ。さあ行けよ、二度と戻ってくるなよ、この化け物、犯罪者め。

242 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/10/05(日) 19:16:37 ID:PjhMC05c
 釈放するとき、典獄たちはそう言って背嚢を投げつけ、衛兵たちは刺叉と騎銃で男を門まで追いやった。官吏たちはたいてい、刑期を終え
た徒刑囚への支給の大部分を搾取し、仲間同士で横流ししていた。しかし彼らはこの男を恐れ、揉めた挙句、渡す金からわずかばかりの額
をくすねるだけにしようと決めた。彼らは単に、自分たちよりはるかにも屈強なこの男を怒らせる事を恐れたのではなかった。男の目を恐れ
ていた。不屈の精神を秘め、すべてを見透かすように輝く目。虎の目だ。静かに機会をうかがい、隙あらば敵に飛びかからんとする目。
殺人や強盗を働いて捕まった、徒刑場の中で最も凶悪な囚人たちでさえ、目を不気味がって男に近寄ろうとはしなかった。

                                        ◆



243 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/10/05(日) 19:17:27 ID:PjhMC05c

 太陽は中天に懸かかり、一片の酌量も持たずに街道を炙っていた。雲ひとつない空と赤茶けた大地が接する地平線、そのまた向こうにある
消失点を目がけて、街道はまっすぐに伸びていた。時々辻馬車が通り過ぎたが、人影はほとんどなかった。見渡す限り、月桂樹とコルク樫と名
もない灌木ばかりだった。風はなく、一歩踏み出すごとに汗が噴き出した。空から一帯を突き刺す光があまりにも強いため、灌木の影は地面に
ピンで固定されたようにくっきりと形を留めていた。赤土の上、ぴったりと張り付いた影と日向は、一片の曖昧さをも残すことのない明瞭な境界
を持ち、互いの領分から少しも出ようとはしなかった。石英が光を跳ね返す緋色と、黒々とした褐色の間に中間はなかった。

 汗にまみれた顔を上げ正面に目をやると、街道のはるか遠くに点在している家々が見えた。揺らめく陽炎を通すと遠くに蝿が舞っているように
しか見えなかった。歩きながら、じっと目を凝らして見ていると蠅が幾分増えたように思えた。蝿は少しずつ集まり形を取り始め、やがて一つの
黒い塊となった。騎馬だ。段々とはっきりしてきた。憲兵かもしれない。しかも二騎。

 男は一瞬ひやりとして足を止めた。二人連れの憲兵はギャロップで馬を駆ってやって来た。白昼夢の中の亡霊のように音もなく土煙も立てず、
恐るべき速さで近づいて来た。少なくとも男にとっては、彼らは灼熱の街道を通り過ぎる冷たく実態のない亡霊に過ぎなかった。なぜならば、憲兵
はかつて男にとって、彼を追い回し痛めつける法と刑罰の冷酷な手先ではあったが、刑期を終えた今の彼には興味すら持たぬ影であるはずだっ
たからだ。何のことはない。もはや恐れる理由はない、と男は再び歩を進めようとした。だが亡霊はすれ違いざまに実態のある、しっかりとした声で
叫んだ。そこの男、待て、と。

244 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/10/05(日) 19:18:47 ID:PjhMC05c
 ギャロップから停止へ急に移行したために、馬は後ろ足の蹄を土に食い込ませ、しばらく地面の上を滑った。激しく砂煙が巻きあがり、馬が不機嫌
そうに嘶いた。二人の憲兵が男を睨んでいた。一人は青白い顔に玉の汗を浮かべた青年で、もう一人の口髭を生やした方が上官らしかった。どこか
ただ事ならぬ様子だった。憲兵の徽章が胸に光っていた。

 やはり憲兵で間違いはない。なぜ俺を呼び止める? なぜ、馬が潰れてしまいかねないほどの速さで翔り来る?

 自分がいるはずのない場所に存在し、そこにあるはずもないものが存在するような感覚に襲われた。トゥーロン徒刑場の奥、石灰と腐った汚物の
匂いのする宿舎の中、冷たい石壁に囲まれた牢獄の中から手が伸びてきたような感覚。

 若い方が拍車の音を派手に立てて下馬した。上官は騎馬のままで眉ひとつ動かさない。

「旅券を出せ」

 若い方が言った。先ほど呼び止めたのもこの青年らしい。男は背嚢を下ろして口ひもを解き、シャツやラムの瓶や薄紙につつんだ堅パンをかき分
けて、大きな皮の財布を取り出した。札入れのリーヴル札の間から黄色い紙きれを取り出し、青年に渡した。旅券を受け取る時、青年は決して目を
合わせようとはしなかった。

「どうだ、違うか?」

 口髭の上官が、熱心に旅券を調べる青年に落ち着いた様子で尋ねた。顔には何の表情もない。

「違います」


245 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2008/10/05(日) 19:19:35 ID:PjhMC05c
 それだけ言い終わると、青年は一瞬にして馬に飛び乗った。上官はすでに馬を駆っていた。青年も馬の腹に蹴りを入れたが、そこで思い出した
ように、男に向けて旅券を投げてよこした。疾走を始める馬が起こす風が、埃とともに紙きれも巻きあげた。紙はゆっくりと空気を押し分け舞い上
がった後、ふわりと落ち始めた。街道に目をやると憲兵たちはすでに、遠くのゆれる蠅に戻っていた。陽炎の向こう側から一陣の風が吹き抜け、
旅券をさらに舞い上げた。

 この程度のことで怯えるなど俺も落ちたものだ。19年の徒刑が終わったというのに、寂寥感だけが募る。何が変わったか。何も変わってはいない。
いや、塀の中で多くを失くした。19年の空白は帰っては来ない。

 黄色い紙が地面に落ちた。男は紙を拾い上げ、薄いインクで書かれてかすれた文字を眺めた。トゥーロン徒刑場発行。19年の服役。4回の脱獄。
1815年八月‐‐日釈放。紙を裏返した。旅券番号一九四八、所有者ジャン・D・ラギ。

 旅券を財布に戻し、背嚢に入れた。それを再び背負う。知らぬ間に太陽は雲に隠れ、風は強くなっていた。もしかしたら一雨来るかもしれない。
まずは街道を北に向かう。今日中に、ディーニュの町に到着できるといいが。

246 :まふ:2008/12/02(火) 20:01:03 ID:PCvaPv96
お題「橋 悪魔 苦痛」


この先にある橋には悪魔が居る。

と、先ほど昼食を取った定食屋の恥というバンダナを付けた、おじさんが話してくれた。
軽い表情で、この町の言い伝えなんだと、教えてくれた。

僕はそれに興味を持った。
より深く知ろうと追加で善哉を頼み、話を促した。

何故、興味を持ったのかと言われたら、正直困る。
旅の途中、行く先も定まらず、目的あらずの僕にとって、面白そうだった。
それしかない。

話は簡単だった。
どこか遠い所へ連れて行かれるんだと。

要約すると、神隠しの類のものだ。

いつもなら、つまらないと鼻で笑ったのかもしれない。
けど、なんとなく、乗ってきたバイクを走らせていた。

目的に行く途中、コンクリートの道路は、土砂に変わり、土に変わる。
徐々に狭くなっていき、ちゃんと整地されてないのか、草木が生えており、
本当に自分は道を走ってるのか錯覚に陥る。

周りが暗くなった、まだ日は高いはずだ。

上を見上げると木々が多い茂っており、外部からまるで隔離されたかのように自分を包み込んでいた。
更にバイクを走らせていくと、やがて霧が出てくる。
最初は気にしないで済む程だったが、徐々に視界は白く深くなり、やがて、数十メートル前から先が見えなくなる。

これ以上進むのは危険か? 戻るべきか?
そう悩んだ時だった、看板を見つけたのは。

『この橋危険、渡るべからず』

僕は周囲を見渡した。


247 :まふ:2008/12/02(火) 20:01:34 ID:PCvaPv96

橋の入り口らしきものを発見した。

木と紐を見る限り、吊り橋だ。 それもかなり古い。

まあ、看板の忠告は正しそうだ。
この橋は渡るべきじゃないのだろう、きっと、おそらく。

だが、戻ろうにも、霧はかなり深くなっており、更にはあの獣道、
もはやバイクで走行するには不可能となっていた。

霧が薄まるまで待つかと、僕はバイクから降り、適当な木の側に座り込む。

暫く、霧が止む気配が無いために一服しようと、
ポケットからタバコを取り出し、口にくわえ、ライターで火をともす。
煙を胚に染み渡らせるように吸い込み、そして、ゆっくりと煙を出した。

「……──♪ ……──♪」

タバコを堪能していると歌声が聞こえた。
小さくて歌詞は聞き取れなかった、だが、誰かが歌っているように聞こえた。

僕はその声につられて立ち上がる。
そして、その声のする方へと足を運ぼうとする。

誰なのだろう?
誰が歌っているのだろう?

ただただ、流されるがままに、なんとなしに足を運ぶ。

「ぎゃあ!」

そこで何かが足に引っかかり、転んでしまった。
受け身も取らずに派手に転んだために全身に擦り傷が出来てしまった。
おかげで痛い。

そのまま、身体を丸めて、苦痛に耐える。

──ガサッ

誰かが来た。
地元の人なら道を案内してもらおうと思い、上半身を持ち上げる。
そして、片手を上げて、声を出す。

「あのー、すみませんがー」

その人は僕の横を通り過ぎた。
何の動作もなく、そして、僕の後ろを通り過ぎる。

無愛想な奴だなと思い、舌を打つ。
だからと言って、ほっとくと命の危険に関わる可能性もあるためにその人の後を追う。


248 :まふ:2008/12/02(火) 20:02:24 ID:PCvaPv96

ちょっと、待てと。

そっちの方は危ないぞと。

その橋は古……

男は僕には見向きもせずに橋を渡る。
吊り橋のきしむ音。
そして、二、三歩進んだかというところで音はしなくなる。

僕は橋に駆け寄った。
大丈夫かと叫んだ。
返事はない。

橋の先を見つめると、女性が居た。
歌って踊って手招きをする女性が。

「……──♪ ……──♪」

そう言えば、歌声、ずっと続いてたなぁと。

僕はすぐに霧の中、道を引き返した。
驚くほど早く、霧は消えて無くなった。
おそらく、ああいうことなのだろうと僕は思う。

橋から逃げている最中、お漏らしをした上に泣いて帰ったのは一生の内緒だ。

「ラギニャァァァーン!!」


後日、僕は前の定食屋で昼飯を食べるついでにその話を恥のおじさんに言った。

「そんな橋、しらねーぞ?」

「え、でも、だって、確かにラギは……」

「俺の言った橋は、ここをまっすぐ道沿いにだ。横道にそれて、山の中に進めとは言ってないぞ」

「…………」

<終わり>

249 :モツ煮:2008/12/02(火) 20:05:08 ID:En5fkm8E
 stにとって、その日は最高の夜になるはずだった。
 四畳一間のアパートを、それこそガムテープで陰毛一本に至るまでを除去するほどに掃除しまくったのも、この夜の為だ。
 クラスメートの又。そのむちむちな魅惑のボディ。今日まで何度、自家発電のお役に立っていただいた事だろう。
 その又が、今夜は自分の部屋に遊びに来てくれるのだ。
 今宵は、むちむち又で童貞を捨て、明日には会長の前で自慢しまくってやる。
 いやいや、それともそんなのは展開が速すぎるか? 手をつなぐ程度で良いか?
 来たら何しよう。ビデオでも見ようか。ムーディーな恋愛映画で気分を盛り上げるか、それともホラー映画で怖がらせて抱きついて貰うか・・・・
 色々と妄想を巡らせていると、ドアのチャイムが鳴り響いた。
 来たぞ! っと、思うが否や、stは狭い四畳一間を風のように走り抜け、あらかじめ鍵を開けてあったドアを開け放った。
 そこには想像通り又がいた。ちょっと寒いからか暖かなダウンジャケットなど着ているが、そんな物では隠しきれないボディラインがはっきり見えている。
 ああ、この柔らかく豊満な胸や、くびれたウェストや、大きなお尻が、今宵stの物となるのだ。そう考えると、stは思わず前屈みにならざるを得なかった。
 前屈みになると視線は下がり、又が持っているフクロに目がとまる。近所のスーパーの物だ。
 その視線に気づき、又はちょっと恥ずかしそうに笑った。
「ごめんね。ご飯まだなの。st君は」
「ああご飯か。そういえばまだだった」
 stは、緊張と興奮のあまり食事をとっていなかった事を思い出す。
 手料理だったら良かったが、それでも二人きりでの食事から始まるのは良い傾向だ。stは内心、好調な滑り出しを喜びながら、又を部屋の中に誘う。
「上がってよ。何買ってきたの?」
 四畳一間の中心に置かれたちゃぶ台。又はそこまで歩いてくると、フクロの中からまずパックを二つ取り出した。
 “白飯”
 しろめし。ご飯である。
 そして、又はあろう事か続けて物を取り出した。
「大好きなの」
 stは凍り付く。そこに有る物。それはstにとって、この世の悪夢が具現化した物であった。
 “納豆”
 何がダメなのだろう。関西人でもないのに。
 食わず嫌いだと言われた事もある。しかし、あれは視覚的にダメだった。
 給食で出た時、納豆のパックを前に給食後の休み時間から放課後まで座らされていた遠い記憶がよみがえる。
 給食を残しちゃいけないとはいえ、手付かずの納豆パックくらい、持ち帰らせてくれても良いじゃないか。おかんが喜んで食べるんだから。と思った苦い思い出だ。
 そんな過去に怯えるstの前で、又は納豆のパックをとり、発泡スチロールで出来たその白い容器を開けた。
 中に見える茶色い豆。
 この納豆は気が利いた部類に入る物らしく、芥子と納豆タレが同梱されている。
 又は、おぞましき茶色の豆の上に、冒涜的に黄色い芥子を垂らし、あろう事か濃茶色の納豆タレまでをもぶちまけた。
 ここまででstの体は嫌悪に震え、歯の根はあわず、嫌な汗が止まらない。ああ、あのおぞましき光景が、今、この自分の住む部屋の中で行われるのだ。
 又は嬉しそうに割り箸を割り、黄色と濃茶色に汚された茶色い豆にその箸を突き立てる。
 絶望の瞬間。
 全ての色が蠢く。どこから現れたかしれない、茶色の糸が豆の間をのたうち、箸に絡まってグチャグチャと歌い始める。
 もはや、stにとって限界であった。
「掻き回すなよ死ね」
 その言葉を言い終えた瞬間、又が浮かべた悲しみに彩られた表情をstは忘れなかっただろう。全てが終わったのだ。

 翌日、stは会長に、当分の間は変わらずお世話になる事と、部屋中にまき散らされた茶色の悪魔の掃除をして欲しい事をお願いする事となった。

250 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:10:36 ID:0B8U7vGE
どうやら本当らしい。
僕が布団の中でその結論を出したのはフクロ荘に来て十日目のことだった。

ミコネコさんが辿り着いた結論が本当であるかは分からない。
又さんと僕に嘘を吹き込んでいるかもしれない。
しかし、それが偽りであるとは思えなかった。

僕の薄弱な人生経験でもそう感じたのだ。
いや、薄弱だからそう感じたのかもしれないが…
とにかくそう感じたのだ。

決定的なのはハズカシさんの話だ。
彼がどれほどこのフクロ荘にいるのかは分からない。
しかしこの土地を知っているということを考えると、ある程度は過ごしているのだろう。
だとすれば、やはり彼はこの土地の人ということになる。
その土地の人が存在を知っているのであれば、やはりそれは本当だろう。

ミコネコさんも又さんもハズカシさんも僕をからかっていると思いたかった。
だが、その願望は願望でしかなく、現実は覆されなかった。

251 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:10:45 ID:0B8U7vGE
日時を示すぐらいしか役目を持たなくなった携帯電話は、
僕の不安な心とは無関係に「4:05」と無機質に時間を教えてくれた。
この結果は昨日から一睡もできず、”黒い噂”について考えたことによっている。

恐らく、いや確実に本当なのだろう。
文明化が進む場所と隔絶されたこの場所にはあってもおかしくない。
恐怖が僕を包み込んだ。

気が付くと空が明るかった。
布団から這いだし、窓から海を見る。
船が数艘見えた以外に何も変化はなかった。

道路に目をやると黒塗りの車が見えた。

252 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:10:57 ID:0B8U7vGE
同時に違和感が生まれた。
こんな時間に、こんな辺鄙な場所に、車が通るのはまずあり得ないことなのだ。
”黒い噂”のせいで疑心暗鬼になっているせいなのか、そう思った。

車は漁港近くに止まった。
この土地に用があるのだろうか。
ますます不安が煽られた。

静寂を打ち破り、電子音が響いた。
それは小さなものであったが、僕にとっては打ち破るような音であった。
音は僕の部屋からしているものではない。

畳の下だ。この下は1-3、arikiさんの部屋だ。
電子音は携帯電話の音だったようだ。
音は中途半端に途切れた。

253 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:11:06 ID:0B8U7vGE
部屋の中央に戻り、耳を澄ましてみた。
他人の話を聞くのは良くないことであることは知っている。
だが、とにかく不安を取り除きたいがためにしてしまった。

話を聞くことはできなかった。
arikiさんの声が聞くには小さすぎたのだ。
早朝であるから当然といえば当然である。

しばらくそのまま耳を澄ましていたが、突然ドアの開く音がした。
その音もarikiさんの部屋からであったのだろう。

254 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:11:19 ID:0B8U7vGE
来客なのだろうか、それとも外出なのだろうか。
疑問に思いつつしばらく考えを巡らしていると、窓から玄関の開く音がした。

そっと覗くとarikiさんの姿が見えた。
視線の先は坂を下り、道路を渡り、そして黒塗りの車の元へ辿り着いた。

arikiさんは車の助手席側に乗り込んだ。
車は発車することなく、そのままであった。

一体何が車の中で行われているのだろうか。
頭の中で”黒い噂”と関連した妄想がぐるぐると渦巻いた。

255 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:11:29 ID:0B8U7vGE
しばらくぼんやりと車を見ていたのがまずかったのだろうか。
突然arikiさんが助手席から降りた。
乱暴にドアは閉められ、僕の耳にもその音が届いた。

そして一瞬の後、彼の視線はフクロ荘の2-3号室に向いた。
まずい。と僕は思ったが、それは彼も同じだったようだ。
彼は恥ずかしそうに頭を撫でた。そしてこちらへ歩き始めた。

慌てて僕は窓から離れた。
窓からは車の離れる音がした。

256 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:11:46 ID:0B8U7vGE
彼はフクロ荘に戻ってくる。
車が去ったということで確定的になったその事項は僕を震え上がらせた。
ただ、彼がフクロ荘に戻ってくるということが重圧に感じた。

”黒い噂”のせいで疑心暗鬼になっている僕には、
ちょっとした非日常の出来事が、恐ろしく感じていたのだ。

携帯電話は変わらず無機質に時を重ねている。
それと同時に僕の心の圧迫も重い物となっていった。

刻一刻、刻一刻と迫ってくるその時まで自分は何をすることもできなかった。

257 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:11:55 ID:0B8U7vGE
「nt君。いるかい」

その声はドアの向こうからした。
arikiさんだった。
返答に詰まったが答えない訳にはいかない。

「あ、はい…」
「ちょっと話があるんだ。開けてくれないか。」

いつものarikiさんの声ではあるが、どことなく畏まっている。
何かあるのだろう。
何も聞かず不安になるよりは、正体を見極めた方がいいだろうと思い、ドアを開けた。

258 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:12:07 ID:0B8U7vGE
「どうも。いやぁ、まずいところを見られちゃったね」
「…何かあったんですか?」
「ん…まぁ、ね。ちょっと長い話になるがちょっと上がらせて貰っていいかい」
「はい」

机を挟んで僕とarikiさんは対面した。

「もう気が付いているかもしれないが…」

arikiさんはそう話し始めた。
僕はドキリとしたが顔には出さないようにした。

259 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:12:28 ID:0B8U7vGE
「俺は元々はバスの運転手でなく、漁師をやっていたんだ。しばらく前まではな」
「はぁ」
「ところがある時”葦富賂株式会社”からこの土地の買収の話が持ち上がったんだ」
「それが何か関係しているんですか?」

葦富賂株式会社は様々な分野に手を広げ、近頃飛躍を遂げている企業だ。
賄賂であるとか汚職であるとかそういう言葉が付きまとう企業でもあるのだが。

「あぁ、だがその理由は話の先の方になる。
 で、それっていうのはこの土地を買収して、ここ一帯を大型リゾート地にするという計画だ」
「…」

確かにここの海は綺麗だし、そういった計画が起きても不思議ではない気がする。

「だがそんなことをしたら、ここの住人は住む場所をなくしてしまう。
 だから俺たちは反対運動を行ったんだ。だが、あいつらは酷い手段を使いやがった」
「酷い手段…ですか?」
「あぁ。ヤクザを送り込んで嫌がらせに来やがった
 店は荒らされ、家はガラスが割られ、当然ここも暴力被害にあった」
「警察は何もしてくれなかったんですか?」
「何もしてくれなかったさ。葦富賂株式会社は警察の上部とも繋がりを持っているらしい」

260 :十日目 ◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:12:43 ID:0B8U7vGE
「でも、今はそんなことが起こっていませんよね」
「あぁ、それが今俺がバスの運転手をやっている理由に繋がってくる。
 俺はその計画を担当していた社員にまとまった金を渡した。
 それで計画を立ち消えにさせたのさ」
「…」
「卑怯な奴らには卑怯な手段がお似合いさ」

自嘲気味にarikiさんは笑った。
その笑いには寂しさが含まれているように感じた。

「でもそんな金がどこにあったんですか?」
「漁船を売っ払ったのさ。やや古いもんではあったが手入れは欠かさなかったからな。
 それなりの値で売れたよ。」
「そこまでして…」
「ここの住人にはここしか住む場所がないのさ。
 それで俺はバスの運転手をやりはじめたんだ」
「はぁ…でもいきなりどうしてそんな話を?」
「…あの社員が今日の早朝、俺に連絡してきたのさ。
 『計画がまた立ち上がった。話をして欲しければ漁港まで来い』とな…」

消えゆくような声でarikiさんはそう話した。

261 :◆VV.HtNrxUA :2009/02/23(月) 21:12:55 ID:0B8U7vGE
ここまで

262 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2009/02/24(火) 12:39:16 ID:UuDDW7vo
おやレスがたくさんついているなと思ったらなんですか(ry
久しぶりすぎてまた最初から読み直してしまった件

263 :( ´∀)・∀),,゚Д)さん:2009/07/22(水) 08:29:23 ID:b0HqCZH2
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(' -')http://www15.atwiki.jp/fukurofantasy/(' -')
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0ch BBS 2007-01-24